2023年5月14日 復活節第六主日礼拝

2023.0514.Shyuuhou

聖 書  ローマの信徒への手紙13章11-14節

説 教  光の武具を身に着けて

 いまから14年前になりますが、アメリカ合衆国に初の黒人大統領オバマ氏が誕生しました。オバマ氏が大統領選挙のキャンペーンで強調した言葉は何だったでしょうか? そうです。「Change」ですね。「変化」です。この変化は、単にブッシュ前大統領の保守党からオバマ氏の民主党に政権が変わるというだけでなく、アメリカ人の心の変化を指していました。黒人大統領誕生というアメリカが抱えていた民族差別の歴史が変わること。人種のるつぼのアメリカの心の変化です。また、当時のイラク戦争の撤退という戦争から平和への変化です。

 オバマ大統領は2期8年大統領(2009年1月20日~2017年1月20日)を務めました。それからトランプ、そして今のバイデン大統領とアメリカ合衆国では大統領が変わったことになります。日本では、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦、そして安倍晋三首相、菅義偉、岸田文雄首相と6人の総理大臣が変わったことになります。 

  

 人間は変化を求めるものだと思います。閉塞状態から開放されて自由になる。そういう変化です。短期間で日本の総理大臣が変わるのは、ほめられたものではないと思います。政治が安定せず、経済においても沈滞化して進歩がなくなります。

 説教の準備をしていて、オバマ大統領からトランプ氏、バイデン氏と大統領が変わりましたが、アメリカは変わったでしょうか? そしてその間、日本は総理大臣が6人変わりましたが、変わったでしょうか?

 さて、変化ということで、一番困難なのは、外形が変わることではなく、内面が変わることではないでしょうか? キリスト教はこの内面性の変化を最大の特徴としています。それは人生をまったく変革させる力です。

 イエス・キリストとの出会いは人間を変化させます。わたしたちは変化したものであります。「変わりましたか?」

 何からの変化でしょうか? 

 1.眠りから覚めたもの

惰眠から目覚めたもの 

幕末の川柳に  太平の眠りを覚ます上喜撰たった4杯で夜も眠れず

があります。江戸幕府 300年の鎖国政策からペルーの艦隊 黒船4隻によって鎖国政策を廃し、開国しました。日本が鎖国で平和を貪っている間に、世界は変わっていたのです。

 わたしたちも惰眠とまで行かなくても、眠りの中にいました。それは、12節「夜」という言葉であり、「闇の行い」、13節の「酒宴と酩酊、淫乱と好色、争いとねたみ」、14節にある「欲望を満足させる」こと、「肉に心を用いて」いる、そういう生き方です。

 罪の中にどっぷりと漬かっていたのです。闇の中におり、夜の真只中にいたのです。

毎日のテレビやマスコミはその欲望を駆り立て、飽和状態にあります。子どもや弱い人たちが影響され、精神と魂の崖っぷちに追い込まれています。

ガラテヤ書5章では、肉の性質、肉のわざとしてさらに列挙しています。

肉の業は明らかです。それは、姦淫、わいせつ、好色、偶像礼拝、魔術、敵意、争い、そねみ、怒り、利己心、不和、仲間争い、ねたみ、泥酔、酒宴、その他このたぐいのものです。

 2.品位  

13節、いいですね。

日中を歩むように、品位をもって歩もうではありませんか。

よく昔は品位のある人がいたものです。いまどき品位のことをいうと、笑われるかもしれません。品位とは、その人にそなわっている気高さや上品さ。品格ですね。品位を持つ。

昔のキリスト者は品位があったか、どうかは分かりません。品位とは何でしょうか?

品位の反対語は、どうでしょう? 下品ですね。品位は説明できなくても、下品というとすぐに理解できます。

 新共同訳聖書は、「品位」と訳されているが、もともとの言葉は、きちんとしている、折り目正しい、慎み深い、正しい生き方(新改訳)、つつましく(口語訳)というような意味があります。

3.キリストを着るー光の武具を身に着けて

12節

夜は更け、日は近づいた。だから、闇の行いを脱ぎ捨てて光の武具を身に着けましょう。

キリストを身にまとう。光の武具を身に着ける。同じですね。品位とは、キリストを着ていることを言います。

パウロは、着るという言葉が大好きでした。エフェソ4章17節、コロサイ3章にも「情欲に迷わされ、滅びに向かっている古い人を脱ぎ捨て、心の底から新たにされて、神に型どって造られた新しい人を身に着け」なさいと勧めています。

キリスト者とは、キリストを着ている人のことです。古い人、欲望の塊のような古い性質のままではなく、利己心と我欲の塊が神によってこなごなに砕かれた新しい人となる。それがキリストを着るということですね。

また、エフェソ6章10節以下には、神の武具について詳しく記されています。

 悪魔の策略に対抗して立つことができるように、神の武具を身に着けなさい。

わたしたちの戦いは、血肉を相手にするものではなく、支配と権威、暗闇の世界の支配者、天にいる悪の諸霊を相手にするものなのです。だから、邪悪な日によく抵抗し、すべてを成し遂げて、しっかりと立つことができるように、神の武具を身に着けなさい。

立って、真理を帯として腰に締め、正義を胸当てとして着け、平和の福音を告げる準備を履物としなさい。なおその上に、信仰を盾として取りなさい。それによって、悪い者の放つ火の矢をことごとく消すことができるのです。また、救いを兜としてかぶり、霊の剣、すなわち神の言葉を取りなさい。

キリストに倣うものとなる。これがわたしたちキリスト者の願いであり祈りであります。教会のみんながそのように願い、祈りをもって教会形成に励む時、教会は大いに祝福を受けるでしょう。愛、喜び、平和、謙遜さ、誠実さ、柔和さ、優しさ、節制、親切。聖霊の実を結ぶ。これが健全な教会形成であり教会を建てあげるということです。

 4.主の日は近い

最後になりますが、最初の言葉に戻ります。11節

今や、わたしたちが信仰に入ったころよりも、救いは近づいているからです。 夜は更け、日は近づいた。

 このところは、初代教会の教父の一人であるアウグスティヌスの回心の時に読まれた聖書であります。放蕩に身を崩し、母の祈りでキリスト教に関心をもっていたアウグスティヌスは、自分の悪癖である肉の欲望をどうしても断ち切れなかったのです。それが悩みでした。仏教でいう、煩悩に悩まされていたのです。光を知り、光に憧れていても、闇の力に縛られ、闇の支配から脱せないでいるのです。惨めな自己の姿に打ちのめされていました。「このままでは、滅びだ」。そう思っても、肉体の欲望から脱せないのです。

 その悩みと苦しみのままに祈っていると、子どもの声が聞こえます。遊びの時の声でした。しかし、彼はそれが天使の声のように感じたのです。その声はこう言っています。

「取って、読め。取って、読め」

カルタでもしているのでしょう。アウグスティヌスは急いで聖書を開いて、目にとまったところを読みました。

それが今日のところです。

更に、あなたがたは今がどんな時であるかを知っています。あなたがたが眠りから覚めるべき時が既に来ています。今や、わたしたちが信仰に入ったころよりも、救いは近づいているからです。夜は更け、日は近づいた。だから、闇の行いを脱ぎ捨てて光の武具を身に着けましょう。  日中を歩むように、品位をもって歩もうではありませんか。酒宴と酩酊、淫乱と好色、争いとねたみを捨て、主イエス・キリストを身にまといなさい。欲望を満足させようとして、肉に心を用いてはなりません。

この文章を読んだアウグスティヌスは、脳天から電気が走ったかのような大きな衝撃を受けました。闇の行いを脱ぎ捨てて光の武具を身に着ける。こうして、彼は回心して、歴史に残る偉大な教父として、キリスト教の発展に寄与したのです。

わたしたちは、すでにキリスト者です。昨日や今日、キリスト者になったのではありません。何度でもこの聖書を読んで知っているのです。でも、品位をもって歩いているでしょうか? 古い人を脱ぎ捨てて、新しい人であるキリストを着ているでしょうか? 

 わたしたちはアウグスティヌスのような偉大な信仰者ではありません。普通の、むしろ弱いキリスト者です。ですから何度でも、今日の聖書を読み、こころに刻み、新しくされようと祈り、キリストに従う信仰を確認する必要があるのです。それが教会の礼拝です。

 祈ります。

メモ

11

Καὶ τοῦτο εἰδότες τὸν καιρόν, ὅτι ὥρα ἤδη ὑμᾶς ἐξ 

ὕπνου ἐγερθῆναι, νῦν γὰρ ἐγγύτερον ἡμῶν ἡ  

σωτηρία ἢ ὅτε ἐπιστεύσαμεν.

 ὕπνου  眠り  ἐγείρω 目覚める、覚醒 

  ἐγγύτερον より近くなっている  

12

ἡ νὺξ προέκοψεν, ἡ δὲ ἡμέρα ἤγγικεν. ἀποθώμεθα

οὖν τὰ ἔργα τοῦ σκότους, ἐνδυσώμεθα [δὲ] τὰ ὅπλα 

τοῦ φωτός.

 προκόπτω 進む、経つ ἀποτίθημι 脇に置く、離れる

 ἔργον 行い、行為        ἐνδύω 着る、身に着ける

 ὅπλον 道具、武器、楽器

13

ὡς ἐν ἡμέρᾳ εὐσχημόνως περιπατήσωμεν, μὴ 

κώμοις καὶ μέθαις, μὴ κοίταις καὶ ἀσελγείαις, μὴ 

ἔριδι καὶ ζήλῳ:

  Εὐσχημόνως きちんと、折り目正しく、慎み深く、正しく歩む(文語)

正しい生き方(新改訳)、つつましく(口語訳) 

περιπατέω 歩く、活用すること、自分の人生を規制する、振る舞う

  κῶμος 酒宴、μέθη 中毒、酩酊 κοίτη 姦淫、淫乱

  ἀσέλγεια 抑えられない欲望、放縦、好色、放縦、法外、恥知らず

   ἔρις 争い  ζήλος 興奮、熱意、嫉妬と論争の激しい競争

14

ἀλλὰ ἐνδύσασθε τὸν κύριον Ἰησοῦν Χριστόν, καὶ τῆς σαρκὸς πρόνοιαν μὴ ποιεῖσθε εἰς ἐπιθυμίας.

πρόνοια 準備をする 

  ποιέω 作る、準備すること、生産する、耐える、撃つこと、行う

  ἐπιθυμία 渇望、憧れ、禁じられているものへの欲望